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Gaussの定理とStokesの定理

物理学では、閉領域や閉曲面、閉曲線におけるベクトルの積分を扱うことが多くあります。これらを結びつけるのがGaussの定理・Stokesの定理です。

復習〜Nabla演算子\(\nabla \)〜

Nabla演算子は、ベクトル場における勾配を求めるために導入された微分演算子です。3次元デカルト座標系におけるNabla演算子

$$\nabla \equiv \left(\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}\right)$$

となります。Nabla演算子はベクトルなので、スカラーに作用させるとベクトルが得られます。例えば力とポテンシャルの関係式。

$${\bf F}=-\nabla U$$

また、ベクトルとの内積(scalar product)を取るとスカラーになり、外積vector product)を取るとベクトルになります。

Gaussの定理

はじめに注意して欲しいのですが、これから扱う「Gaussの定理」と「Gaussの法則」は全く別のものです。「Gaussの定理」は数学の定理であり、「Gaussの法則」は電磁気学の法則の一つです。

さてそのGaussの定理ですが、次のような式をしています。

$$\int _S {\bf J}\cdot{\bf n}dS=\int_V \nabla \cdot {\bf J}dV$$

ここで\(V\)は任意の閉領域、\(S\)は閉領域の表面で、\(\bf n\)は表面\(S\)の微小な面積要素における外向きの単位法線ベクトルです。

また右辺の被積分関数\(\nabla \cdot {\bf J}\)のようにNabla演算子とベクトルによる内積のような演算を\(\mathrm{div}\,{\bf J}\)と書きます。この演算子\(\mathrm{div}\)は「発散(divergence)」を意味しています。

定理の意味

Gaussの定理は物理的にどのような意味を持っているのでしょうか。Gaussの定理の右辺は\({\bf J}\cdot {\bf n}\)という量を表面積\(S\)で足し合わせています。\({\bf J}\cdot {\bf n}\)はある微小な面積要素におけるベクトル\({\bf J}\)の外向き法線方向の大きさでした。これを足し合わせた量は、表面からベクトル\({\bf J}\)が外に向かって出ている量、ということになります。\({\bf J}\)を流れのベクトルと見ると、\(\int_S {\bf J}\cdot{\bf n}dS\)は表面\(S\)から湧き出す流れの量となるでしょう。

では右辺はどのような意味があるのでしょう。実は\(\mathrm{div}\,{\bf J}\)は\(\bf J\)のある点における「湧き出し・吸い込み」を表しています。なので、これを体積全体で積分すると、閉領域\(V\)から出てゆくベクトル\(\bf J\)の量となります。

つまり、右辺・左辺ともに領域から湧き出すベクトル\(\bf J\)の量を表しており、記述方法が体積積分と面積積分の2通りあるということです。

Stokesの定理

次にStokesの定理をみてみましょう。

$$\oint_C {\bf F}\cdot d{\bf r}=\int_S( \nabla \times {\bf F})\cdot {\bf n}dS $$

左辺の\(C\)は閉経路で、右辺の\(S\)は\(C\)を境界に持つような曲面のことです。\(C\)の向きは、進行方向向かって左側に\(S\)があるような向き(正の向き)にします。

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定理の意味

Gaussの定理と同様に、Stokesの定理もある量を二つの方法で表現しています。その量とは何でしょうか。

左辺はベクトル\(\bf F\)を閉曲線\(C\)に沿って積分した量になります。ならば、右辺も同様の量を表しているはずです。

右辺を考える前に、\(\nabla \times {\bf F}\)という演算を考えてみましょう。これは\(\mathrm{rot}\,{\bf F}\)とも書き、ベクトル\({\bf F}\)の「回転(rotation)」を表しています。では、\(\mathrm{rot}\,{\bf J}\)を\(S\)で積分することを考えましょう。

面\(S\)を微小領域に分割し、そのそれぞれで\(\mathrm{rot}\)を考えます。

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中心にある領域の\(\mathrm{rot}\)を見ると、隣り合う領域と打ち消しあって0になることがわかります。このようなことが領域内部で成り立つので、\(S\)全体で考えると、境界での\(\mathrm{rot}\)しか残らないことになります。境界での\(\mathrm{rot}\,{\bf F}\)を全て足すと左辺の積分に一致するでしょう。

Stokesの定理はベクトルの境界における積分を、境界に着目した方法と面に着目した方法の二つで表したものだということです。

まとめ

Gaussの定理

$$\int_S {\bf J}\cdot{\bf n}dS=\int_V \mathrm{div}\, {\bf J}dV$$

Stokesの定理

$$\oint_C {\bf F}\cdot d{\bf r} = \int_S \mathrm{rot}\, {\bf F}\cdot{\bf n}dS$$

(終)