FarPhys〜物理学と戯れて〜

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Lie代数と物理

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今回は、Lie代数という群(Group)の代数と物理学の関係性についてみていきます。素粒子論などに興味のある方は是非読んで欲しい話です。

「群」について復習したい場合はこちらの記事をどうぞ。

fartherphysics.hatenablog.com

回転を表す行列

まず初めにあるベクトルの回転を考えてみましょう。線形代数を習った方はお分かりかと思いますが、あるベクトル$\bf v$を他のベクトル$\bf v'$に移す操作は行列を用いて

$${\bf v'}=A{\bf v}$$

と書くことができます。ベクトル$\bf v\,,\bf v'$が$n$次のベクトルなら、行列$A$は$n$次の正方行列になりますね。

さて、回転とはどのような変換でしょう。それは「2ベクトルの内積を不変に保つ変換」です。この条件を数式で書いてみます。

2つの複素ベクトル$\bf v,\bf w$を行列$A$で表される変換で$\bf v'\,,\bf w'$にそれぞれ移します。すると

$${\bf v'}=A{\bf v}$$

$${\bf w'}=A{\bf w}$$

とかけるでしょう。ここで$A$が回転を表しているのなら、ベクトル$\bf v\,,\bf w$の内積と$\bf v'\,,\bf w'$の内積は変わらないはずです。すなわち

$$({\bf v'},{\bf w'})={\bf v'}^\dagger{\bf w'}=\left({\bf v}^\dagger A^\dagger\right)\left( A{\bf w}\right)={\bf v}^\dagger {\bf w}$$

となります。このことから、$A^\dagger A={\bf 1}$であれば良いことがわかりました。つまり、行列$A$はエルミート行列であれば良いのです。

さて、エルミート行列の性質をもう少し見てみましょう。行列式を見ると、

$$\mathrm{det}(A^\dagger A)=|\mathrm{det}A|^2=\mathrm{det}{\bf 1}=1$$

となります。すなわち、$\mathrm{det}A$は実数$\theta$に対して

$$\mathrm{det}A=e^{i\theta}$$

とかけるのです。このような行列$A$は群を成します。これをユニタリー群といい、$n$次元のユニタリー群を$U(n)$と書きます。

 

$SU(n)$

それではn次元の回転に対応するユニタリー群$U(n)$について考えていきます。

行列$A$が$A\in U(n)$であるとは、$A$がn次の正方行列で、その行列式について

$$\mathrm{det}A=e^{i\theta}$$

が成り立っていれることを意味します。ここで、この条件に更に制約を課して

$$\mathrm{det}A=1$$

としましょう。このような行列$A$の集合を「特殊ユニタリー群(Special Unitary)」といい、$SU(n)$と書きます。

では$SU(n)$はどのような行列の群なのでしょう?答えは、「回転を表す行列の群」です。おや?と思ったかたもいるのではないでしょうか。そうです。一番最初に回転を表す行列の群を考えた時に出てきたのがユニタリー群だったはずです。

実は、ユニタリー行列は「ベクトルの内積を不変にする変換の行列」だったのです。なので、回転のほかに鏡映(反転)などの変換も含んでいます。回転だけが属する群が特殊ユニタリー群なのです。

$$U(n)\to \left\{\begin{array}{l}\mathrm{det}A\neq 1…鏡映など\\ \mathrm{det}A=1…回転:SU(n)\end{array}\right.$$

 

$SU(2)$

$SU(2)$は電子のスピンに関する様々な洞察を与えてくれます。角運動量演算子にも現れてくる代数です。また、$SU(2)$の基本的な行列はパウリ行列と呼ばれる行列です。量子力学のSchrödinger-Pauli方程式、Dirac方程式などでも登場する行列です。

$$σ_1=\left( \begin{matrix}1 & 0\\0 & 1\end{matrix}\right)$$

$$σ_2=\left( \begin{array}{cc}0 & -i\\i & 0\end{array}\right)$$

$$σ_3=\left( \begin{array}{cc}1 & 0\\0 & -1\end{array}\right)$$

 

 

$SU(3)$

$SU(3)$はクオークやその複合粒子であるバリオンなどの分類、摂動論への応用に用いられます。

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中間子のSU(3)による分類

これらはLie代数の物理への応用のほんの一部です。ほかにもカラー自由度やスピノルへの応用などがあります(終)。