SU(2)の構成
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今回はLie群の中のSU(2):2次特殊ユニタリー群の表現を構成していきます。調和振動子を用いた構成方法を用います。この方法は$SU(n)$に拡張するのが容易であるというメリットがあります。
群の復習したい場合はこちらの記事をどうぞ。
そして、今回のゴールは$J_\pm,J_3$の行列要素を求めることです。
ハミルトニアン、生成・消滅演算子
互いに相互しない粒子が$N$個ある場合、等方調和振動子のハミルトニアンは
$$H=\sum_{i=1}^N \left(\frac{1}{2m}p_i^2+\frac{1}{2}m\omega^2x_i^2\right)$$
とかけます。これからは簡単のために$m=\omega=\hbar=1$の系を考えることにしましょう。すると生成・消滅演算子と個数演算子は次のようにシンプルな形でかけます。
$$a\equiv \frac{1}{\sqrt{2}}(x+ip)\,,a^\dagger \equiv \frac{1}{\sqrt{2}}(x-ip)$$
$$N\equiv a^\dagger a$$
交換関係なども確認しておきましょう。
$$[a,a^\dagger]=1$$
$$[N,a]=-a\,,[N,a^\dagger]=a^\dagger\,:Na^\dagger=a^\dagger(N+1)$$
この時ハミルトニアンは$H=a^\dagger a+\frac{1}{2}$とかけます。
一般の状態の構成:$|n\rangle$
それでは、一般の状態$|n\rangle$を構成していきます。まずは1次元で考えましょう。
結果は
$$n\rangle =\frac{1}{\sqrt{n!}}\left(a^\dagger\right)^n|0\rangle$$
になるので、量子力学ですでにこの結果を知っている人は読み飛ばしてください。[>>続き]
まずは状態$|0\rangle$を考えます。この$0$というのは$N$の固有値で、例えば$|m\rangle$に対しては$N|m\rangle=m|m\rangle$となります。
このことから、状態$|n\rangle$を作りたい場合は$|0\rangle$に$a^\dagger$を$n$回作用させれば良いのです。ただし係数は未知数で
$$|n\rangle =C_n\left(a^\dagger\right)^n|0\rangle$$
と書くことができます。また、係数$C_n$は規格化条件から決定することができます。
$$\begin{eqnarray} \langle n'|n\rangle &=& C_{n'}^\ast C_n\langle 0|a^{n'}{a^\dagger}^n|0\rangle\\ &=&\delta_{nn'}C_{n'}^\ast C_nn\langle 0|a^{n'-1}{a^\dagger}^{n-1}|0\rangle\\ …&=&n!|C_n|^2=1 \end{eqnarray}$$
すなわち$|n\rangle$は係数を実数にとって
$$|n\rangle =\frac{1}{\sqrt{n}}\left(a^\dagger\right)^n|0\rangle$$
とかけるのです。
[>>続き]
この$|n\rangle=\frac{1}{\sqrt{n!}}\left(a^\dagger\right)^n|0\rangle$を1次元から$D$次元に拡張すると次のようになります。
$$a\to a_i$$
$$N\to N_i \equiv a_i^\dagger a_i\,, N\equiv \sum_{i=1}^DN_i$$
$$[a_i,a_j^\dagger]=\delta_{ij}$$
$$|n_1,...,n_D\rangle =\frac{1}{\sqrt{n_1!...n_D!}}\left(a_1^\dagger\right)^{n_1}...\left(a_D^\dagger\right)^{n_D}|0\rangle$$
$$(i=1,2,...,D)$$
SU(2)のLie代数
それでは本題の$SU(2)$を構成していきます。まず、2次元における生成・消滅演算子$a_1\,,a_2$を考えましょう。このとき個数演算子$N$とハミルトニアン$H$は
$$N=a_1^\dagger a_1+a_2^\dagger a_2$$
$$H=N+1$$
となります。
ここで、回転を表す行列$u\in SU(2)$は生成元を$J$として$u=e^{i\vec{\theta}\cdot\vec{J}}$と書くことができます。この$J$は
$$J_i\equiv \frac{1}{2}\sum_{a,b=1,2}a_a^\dagger σ^i_{ab}a_b=\frac{1}{2}\vec{a}^\dagger σ^i\vec{a}$$
というように構成します。ただし$σ$はPauli行列です。理由は省略しますが、$[H,J]=0$となるような構成です。$i=1,2,3$について書き下すと
$$J_1=\frac{1}{2}(a_1^\dagger a_2+a_2^\dagger a_1)$$
$$J_2=\frac{1}{2}(a_1^\dagger a_2-a_2^\dagger a_1)$$
$$J_3=\frac{1}{2}(a_1^\dagger a_1 +a_2^\dagger a_2)=\frac{1}{2}(N_1-N_2)$$
となります。このことから$J_i$の交換関係は
$$[J_i,J_j]=i\epsilon_{ijk}J_k$$
であることがわかります。これが$SU(2)$のLie代数と呼ばれる交換関係です。
SU(2)の構成
では最後に$J$の行列要素を求めていきましょう。そのためには$|p\rangle_1|q\rangle_2$という状態を考える必要があります。これは「粒子1の状態が$|p\rangle$で、粒子2の状態が$|q\rangle$である状態」と考えていいでしょう。2粒子の複合系とでも言いましょうか。
この状態は$|0\rangle$と生成・消滅演算子を用いて次のように書くことができます。
$$|p\rangle_1|q\rangle_2=\frac{1}{\sqrt{p!q!}}\left(a_1^\dagger\right)^p\left(a_2^\dagger\right)^q|0\rangle_1|0\rangle_2$$
これは『一般の状態の構成』 の最後に得た結果で$D=2$としたものです。
さて、この状態に個数演算子$\hat{N}=a_1^\dagger a_1+a_2^\dagger a_2$を作用させます。以降、簡単のために$|p\rangle_1|q\rangle_2=|p,q\rangle$と書くことにしましょう。
$$\hat{N}|p,q\rangle=(p+q)|p,q\rangle$$
カシミア演算子$\vec{J}^2$は(少々大変な計算を経て)$\vec{J}^2=\frac{\hat{N}}{2}\left(\frac{\hat{N}}{2}+1\right)$となります。状態$|p,q\rangle$に対する$\vec{J}^2$の固有値を、角運動量の表記に従って$j$と書くことにしましょう。すると$\frac{\hat{N}}{2}$の固有値$\frac{N}{2}=j$となります。
さらに、$|p,q\rangle$の$\hat{N}$の固有値$N$は真面目に計算すると$N=p+q$です。一方で状態$|p,q\rangle$に$J_3$を作用させると
$$J_3|p,q\rangle=\frac{1}{2}(p-q)|p,q\rangle$$
であることもわかります。すなわち$|p,q\rangle$を角運動量演算子の固有状態の表記に従って$|p,q\rangle =|j,m\rangle\rangle$とかけば、
$$j=\frac{1}{2}(p+q)\,,m=\frac{1}{2}(p-q)$$
となるのです。これらから直ちに$p=j+m\,,q=j- m $という関係もわかります。
つまり$|p,q\rangle$に演算子$J$、例えば$J_+$を作用させてみると、
$$\begin{eqnarray} J_+|p,q\rangle &=& a_1^\dagger |p\rangle_1 a_2|q\rangle_2\\ &=&\sqrt{p+1}|p+1\rangle_1 \sqrt{q}|q-1\rangle_2\\ &=&\sqrt{(p+1)q}|p+1,q-1\rangle\\ &=&\sqrt{(p+1)q}|j,m+1\rangle\rangle\\ &=&\sqrt{(j+m+1)(j-m)}|j,m+1\rangle\rangle\end{eqnarray}$$
であることがわかります。このような議論を$J_-\,,J_3$に対しても行えば、それぞれの行列要素が
$$\langle j,m+1|J_+|j,m\rangle =\sqrt{(p+1)q}=\sqrt{(j+m+1)(j-m)}$$
$$\langle j, m -1|J_-|j,m\rangle =\sqrt{(p-1)q}=\sqrt{(j-m+1)(j+m)}$$
$$\langle j',m'|J_3|j,m\rangle =m\delta_{jj'}\delta_{mm'}$$
などとなることが示されます。これが$SU(2)$の行列要素です(終)