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状態の「掛け算」

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今回は複数の状態を合わせて一つの状態として扱う方法を考えます。例えば粒子は「位置(という状態)」「運動量(という状態)」「スピン」などの様々な状態を持っており、私たちが扱うのはそれらが合わさった状態です。また、複数の電子がある系(原子模型など)では2個以上の電子を合わせて一つの系として扱います。この際にも状態の「掛け算」をする必要があります。

まず最初に「状態ベクトルの合成」について考えてみましょう。
まず1つの粒子について、状態をケットで表現します。スピン自由度は上むきと下向きの二つがあり、粒子なので位置の自由度も持っています。なので状態ケットを次のように書きたくなるでしょう。

$$|\vec{x};\pm\rangle$$

さて、ケットはベクトルのように「空間を張る」ということを思い出しましょう。\(|\vec{x};\pm\rangle\)はどのような空間を張るのでしょうか?そしてその空間は\(|\vec{x}\rangle\)や\(|\pm\rangle\)の張る空間とどのような関係があるのでしょうか?

これを端的に表すのが次の式です。上で書いた状態ケットの式は、次のように定義されます。

$$|\vec{x};\pm\rangle =|\vec{x}\rangle \otimes |\pm\rangle$$

\(\otimes\)という記号は「直積」という数学記号で、2つのベクトル空間を掛け合わせたようなものを意味します。ここでは\(|\vec{x}\rangle\)という位置の空間と\(|\pm\rangle\)というスピン空間を掛け合わせたものです。
したがって、位置の空間に作用する演算子\(\hat{A}\)とスピンの空間に作用する演算子\(\hat{B}\)を足した演算子を\(|\vec{x};\pm\rangle\)に作用させると次のようになります。

$$(\hat{A}+\hat{B})|\vec{x};\pm\rangle = (\hat{A}|\vec{x}\rangle)\otimes|\pm\rangle+|\vec{x}\rangle\otimes (\hat{B}|\pm\rangle)$$

このことを考えると、\(\hat{A}+\hat{B}\)は次のように書いても良いのではないでしょうか。

$$\hat{A}+\hat{B}=\hat{A}\otimes {\textbf 1}+{\textbf 1}\otimes \hat{B}$$

直積記号の右側は位置の空間に作用し、左側はスピンの空間に作用するという意味です。\(\hat{A}\)は位置の空間にしか作用しないので、スピンの空間には恒等演算子\({\textbf 1}\)がついています。

それでは別の例を考えてみましょう。2つのスピンのない粒子1と2があり、それらの位置ケットが\(|\vec{x}\rangle_i(i=1,2)\)と書かれているとします。この2粒子系を一つの状態としてかくと

$$|\vec{x}\rangle_1\otimes |\vec{x}\rangle_2$$

となるでしょう。そして粒子1に対して作用する\(\hat{A}\)と粒子2に対して作用する\(\hat{B}\)の足し算は

$$\hat{A}\otimes {\textbf 1}+{\textbf 1}\otimes \hat{B}$$

であり、実際に作用させると次のようになるはずです。

$$\hat{A}|\vec{x}\rangle_1\otimes |\vec{x}\rangle_2+|\vec{x}\rangle_1\otimes\hat{B}|\vec{x}\rangle_2$$

 

この考え方を用いて、「角運動量の加算」を考えていきましょう。

 

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