FarPhys〜物理学と戯れて〜

物理学の解説をしているFarPhysのブログです!

ルジャンドル変換の意外なはなし

今回はルジャンドル変換(Legendre transformation)について解説します。ルジャンドル変換とは、熱力学において熱力学第一法則から種々の自由エネルギーを作る時や、解析力学においてラグランジュ形式からハミルトン形式に移る時に用いられる変換です。

この変換は物理でよく登場するのですが、具体的に触れられることはほとんどありません。今回はルジャンドル変換がもつ意味について探っていこうと思います。

グラフの表現

さて、ここで1変数関数\(f(x)\)を考えます。この関数によるグラフを\(xy\)平面で書くのですが、この時の座標の表示方法は2つ考えられます。

  • \(xy\)平面での点を直接指定する方法:点座標
  • ある点での傾きと接線の\(y\)切片を指定する方法:接線座標

です。点座標は普段使っている表現ですが、接線座標は馴染みがないですね。

この時、点座標から接線座標への変換のことをルジャンドル変換と言います。

数学的な定義

さてルジャンドル変換のイメージが掴めたところで、数学的な定義を与えましょう。

\(\mathrm{def.}\)

凸関数\(f(x)\)に対して、変換\(x\to p\,,f\to f^* \):

\(f^*(p):=\sup_x\left(px-f(x)\right)\)

ルジャンドル変換という。

また、下に凸な関数に対して

\(f^*(p):=xp-f(x)\ \mathrm{at}\ x\ \mathrm{s.t.}\ f'(x-0)\leq p\leq f'(x+0)\)

も上の定義と等価である。

定義の意味

ここでいくつか数学の記号が出てきたので説明します。

まず\(f(x\pm 0)\)という表記ですが、これは関数\(f\)の\(x>0 or x<0\)から\(x=0\)への極限をとるという意味です(右極限と左極限)。連続な関数ではこれらの極限は一致しています(\(f(x\pm 0)=f(x)\))。

f:id:Pharphys:20200524212748j:plain



次に\(\sup_x\)ですが、これは「上限」というものです。例えばある開領域\(A=[a,b]\)があったとしましょう。この時の上限は\(\sup A=b\)となります。また、閉領域\(B=[a,b]\)に対しては\(\sup B=b\)です。上限は「開領域に対しても値を持つ最大値のようなもの」と思っていいでしょう。

f:id:Pharphys:20200524213923j:plain


定義をもっと直感的に

さて上での定義に意味づけをしていきましょう。ルジャンドル変換は「点座標から接線座標への変換」だったことを思い出してください。

関数\(f(x)\)がある時、

関数の傾き:\(p := \frac{\partial f(x)}{\partial x}\)

接線の\(y\)切片:\(f^*(p ):= x(p)\cdot p-f\left(x(p)\right)\)

となります。

これはまさに定義の2番目の式に他なりません!

解析力学でのルジャンドル変換

解析力学で用いられるルジャンドル変換は、多変数関数に対して用いることがほとんどです。というのも、\(N\)個の粒子が3次元で運動している場合には、変数の数が一般化座標と一般化運動量の個数(6\(N\))個になるからです。

さて、多変数関数に対するルジャンドル変換を定義しましょう。

\(\mathrm{def.}\)

\(n\)個の変数\(x^i\ (i=1,2,...,n)\)の関数\(f(x)=f(x^1,x^2,...,x^n)\)が与えられた時、

\(\omega_i \equiv \frac{\partial f(x)}{\partial x^i}\)

\(f^*(\omega)\equiv \sum_i x^i(\omega)\cdot \omega_i-f(x(\omega))\)

の変換がルジャンドル変換

 

変わったのは多変数関数になったことで\(x^i(\omega)\cdot \omega_i\)という\(i\)について和をとる項が出てきた点だけです。

なお、ルジャンドル変換の逆変換はルジャンドル変換と同じ構造をしていることが知られています。

 

このようにルジャンドル変換は「点座標と接線座標の変換」であり、逆変換も同じ構造を持っている特殊な変換です。また、本題とは関係ありませんが、上限や下限などの概念も押さえておくと良いでしょう。(終)

群のはなし

群(group)とは、数学における数や行列などのある特徴を持ったグループ(集合)のことです。数学では「群論」という分野で群を扱います。物理学でも量子論などで群が登場します。

さて、群の具体例をみてみましょう。

などです。一度は出会ったことがあるでしょう。

では、どのような集合が群になるのでしょうか?

群の定義

群は次の4つの条件を満たすような集合\(G\)のことです。

  1. 集合の元に対して積\(\cdot\)が定義され、任意の元の積が集合の元となる(積の定義)
    \({}^\forall g_1,g_2\in G s.t. g_1\cdot g_2 \equiv g \in G\)
  2. 単位元\(e \in G\)が存在する
    \(e\cdot g =g\cdot e =g\)
  3. 逆元が存在する
    \(g\cdot g^{-1}=g^{-1}\cdot g =e\)
  4. 結合則が成り立つ
    \(g_1\cdot (g_2\cdot g_3)=(g_1\cdot g_2)\cdot g_3\)

では、これらの定義を有理数の集合\(\mathbb{Q}\)で考えてみましょう。

  1. 二項演算子の定義
    任意の有理数\(a,b\)には和が定義されています。いわゆる\(+\)です。 
    また、\(a,b\)の和\(a+ b\)は明らかに0以外の有理数になっています。
  2. 単位元
    単位元とは、和をとっても値が変わらないものを言います。有理数の集合における単位元は、0です。
  3. 逆元
    逆元とは、和を取ると単位元になるものです。なので元\(a\)の逆元は\(-a\)になります。
  4. 結合則
    0でない有理数\(a,b,c\)に対して\(a+b+ c\)を考えると、\(a+ b\)を先に計算する場合と\(b+ c\)を先に計算する場合で結果が一致するのは当然でしょう。これが結合則です。
    積の順序を入れ替えることができるかは別の話なので混同しないように注意しましょう。

群の性質

では次に群の性質を見てみましょう。群が一般的に満たす性質は次の2つです。

要するに、一つの群に対して単位元・逆元はそれぞれ1つしかないということです。当然のように思えることですが、一応証明をしておきましょう。

\(\mathrm{Prf.}\)単位元の一意性

\(\hspace 15pt\)単位元\(e\,,e^\prime (e\neq e^\prime)\)が存在すると仮定する

\(\hspace 15pt\)\(ae^\prime =e^\prime a =a\) より、\(a=e\)とすると \(ee^\prime =e^\prime e =e\)

\(\hspace 15pt\)また、\(ae =ea =a\) より、\(a=e^\prime\)とすると \(e^\prime e=ee^\prime =e^\prime\)

\(\hspace 15pt\)したがって\(e=e^\prime\)となって仮定に矛盾

\(\hspace 15pt\)すなわち単位元は唯一 \(\mathrm{Q.E.}\mathrm{D.}\)

 

\(\mathrm{Prf.}\)逆元の一意性

\(\hspace 15pt\)元\(a\)の逆元\(b\)は\(ba=e\)で定義される。

\(\hspace 15pt\)よって\(baa^{-1}=ea^{-1}\,, b=a^{-1}\)

\(\hspace 15pt\)\(a\)の\(b\)ではない逆元\(c\)が存在したとすると、同様の議論で\(c=a^{-1}\)

\(\hspace 15pt\)よって\(b=c\)となって逆元は唯一 \(\mathrm{Q.E.}\mathrm{D.}\)

 

まとめ

群とは、集合のうち、ある性質を満たすようなもののことでした。

群には様々な種類がありますが、物理学で多用するのは「連続群(リー群)」と呼ばれるものです。物理学でのリー群に関する導入的な参考書は少ないので、基本的な群の性質から勉強していきましょう。(終)

Planckの輻射法則(Planckの導出)

1900年、ドイツの物理学者Max Planckは黒体から放出される光のエネルギー密度と振動数の関係を、光のエネルギーを量子化することによって論理的に説明しました。このPlanckの量子仮説は量子力学の第一歩と言っても過言ではありません。

今回はそのPlanckの輻射法則をPlanckによる方法で導出します。

Planckの輻射法則

Planckの輻射法則は、放射エネルギー密度\(\rho\)について

$$\rho(\omega,T)=\frac{\hbar \omega ^3}{\pi^2c^3}\frac{1}{\exp(\hbar \omega /k_BT)-1}$$

という式で表されます。文献によっては、\(\hbar \to \frac{h}{2\pi}, \omega \to 2\pi \nu\)の表記で書いてあるかもしれません。

1 輻射の自由度

Plankによる導出は、光を波動として捉えるところから出発しています。

まず始めに輻射の自由度を考えます。輻射は電磁波なので、考えるべきは電磁波の自由度、さらに言えばVector Potential\(\bf A\)の自由度になります。

ここで\({\bf A}({\bf r},t)=A({\bf r})\exp(i\omega t)\)とすると 、□\({\bf A}=0\)から

$$\left(\Delta +\frac{\omega^2}{c^2}\right){\bf A}({\bf r})=\left(\Delta +k^2\right){\bf A}({\bf r})=0$$

となります。なお□はダランベール演算子で、□\({\bf A}=0\)はMaxwellの方程式をVector Potentialで表記した時の

$$□{\bf A}=\mu_0 {\bf i}$$

において\({\bf i}={\bf 0}\)としたものです。

さて、ここでVector Potentialがクーロンゲージを満たすとしましょう。この時、

$$\mathrm{div}{\bf A}=0 \Leftrightarrow {\bf A\cdot k}=0$$

となります。成分を顕にして書くと、

$$A_xk_x+A_yk_y+A_zk_z =0$$

です。また、波数\({\bf k}\)の大きさについては

$$|{\bf k}|^2=k_x^2+k_y^2+k_z^2\equiv k^2 =\frac{\omega ^2}{c^2}$$

となるので、天下り的ではありますが

$$k_x=\frac{n_x\pi}{a}\,,k_y=\frac{n_y\pi}{a}\,,k_z=\frac{n_z\pi}{a}\, n_x,n_y,n_z=1,2,3,...$$

とかけます。\(a\)は考えている空間の代表的なスケールであり、この式は空間の並進対称性によるものです。

この時、\((dn_z\,,dn_y\,,dn_z)\)の範囲に含まれるVector Potential\({\bf A}\)の自由度\(dN^\prime\)は\((n_z\,,n_y\,,n_z)\)空間の体積と同一視でき、 \(n_x,n_y,n_z\)は第一象限にあるので

$$dN^\prime=\frac{\pi}{2}n^2dn\, (n^2=n_x^2+n_y^2+n_z^2)$$

これは角振動数が\(\omega \sim \omega +d\omega\)にあるようなVector Potential の自由度なので\(dN^\prime (\omega)\)と書くと

$$dN^\prime (\omega)=\frac{1}{2}\pi n^2dn=\frac{\pi}{2}\left(\frac{a}{\pi}\right)^3k^2dk=\frac{V}{2\pi^2c^3}\omega ^2d\omega$$

一つの電磁波のモードには2つの編曲自由度があることを考えると

$$\frac{dN}{d\omega}=\frac{V}{\pi^2c^3}\omega^2$$

となります。

1.2 Rayleigh-Jeansの輻射法則

次に、実際にエネルギー密度と角振動数の関係を求めてゆきます。

まず温度\(T\)、体積\(V\)の空洞を用意し、その中での輻射を考えます。なお、輻射は一様で等方的かつ偏極なしと仮定しましょう。

輻射のエネルギー密度\(\rho(\omega ,T)\)は空洞全体との関係を考えると

$$\frac{E}{V}=\int_V \rho(\omega ,T)d\omega$$

となります。また、輻射のエネルギー=電磁場のエネルギーとしましょう。

さて、振動数は電磁場の固有振動数になります。これは考えている空間が有限の体積を持った空洞であるからです。

ここで次の2つの量を定義します。

\(\frac{dN}{d\omega}(\omega)d\omega\):角振動数が幅\(d\omega\)に含まれるモードの数

\(\bar{\varepsilon}(\omega,T)\):角振動数\(\omega\)のモードの温度\(T\)でのエネルギー

この時、角振動数が幅\(d\omega\)にあるようなエネルギーは

$$V\rho(\omega,T)d\omega = \frac{dN}{d\omega}(\omega)\bar{\varepsilon}(\omega,T)d\omega$$

$$\therefore \rho(\omega ,T)=\frac{1}{V}\frac{dN(\omega)}{d\omega}\bar{\varepsilon}(\omega,T)$$

となります。また、\(\frac{dN}{d\omega}=\frac{V}{\pi^2c^3}\omega^2\)から

$$\rho(\omega,T)=\frac{1}{\pi^2c^3}\omega^2\bar{\varepsilon}(\omega,T)$$

ここで光の偏光自由度が2で、エネルギー等分配則から\(\bar{\varepsilon}=k_BT\)となることを用いるとRayleigh-Jeansの輻射法則

$$\rho(\omega,T)=\frac{k_BT}{\pi^2c^3}\omega^2$$

導かれます。

エネルギーの量子化

導出したRayleigh-Jeansの輻射法則ですが、実際の観測結果と比べると\(\omega\)が大きい領域ではずれが生じてしまうことがわかっていました。

これを解決するために、Planckはエネルギーを量子化しました:

$$\varepsilon_n =n\cdot \hbar \omega $$

これを用いると平均のエネルギー\(\bar{\varepsilon}\)はBoltzmann分布により

$$\bar{\varepsilon}=\frac{\sum{}_n\varepsilon_n\exp(-\varepsilon/k_BT)}{\sum{}_n\exp(-\varepsilon_n/k_BT)}=\frac{\hbar \omega}{\exp(\hbar \omega/k_BT)-1}$$

となります。これを前述の\(\rho\)の式に代入すると

$$\rho(\omega,T)=\frac{\hbar \omega ^3}{\pi^2c^3}\frac{1}{\exp(\hbar \omega /k_BT)-1}$$

というPlanckの輻射法則が得られます。

Planckはこの導出を行う際に導入した「光エネルギーの量子化」はあくまで仮定として扱っており、具体的な物理的意味を見出すことはできませんでした。しかしその後Einsteinによって全く別の方向からPlanckの輻射法則が成り立つことが示され、光が粒子性を持つことが認められるようになります。(終)

Gaussの定理とStokesの定理

物理学では、閉領域や閉曲面、閉曲線におけるベクトルの積分を扱うことが多くあります。これらを結びつけるのがGaussの定理・Stokesの定理です。

復習〜Nabla演算子\(\nabla \)〜

Nabla演算子は、ベクトル場における勾配を求めるために導入された微分演算子です。3次元デカルト座標系におけるNabla演算子

$$\nabla \equiv \left(\frac{\partial}{\partial x},\frac{\partial}{\partial y},\frac{\partial}{\partial z}\right)$$

となります。Nabla演算子はベクトルなので、スカラーに作用させるとベクトルが得られます。例えば力とポテンシャルの関係式。

$${\bf F}=-\nabla U$$

また、ベクトルとの内積(scalar product)を取るとスカラーになり、外積vector product)を取るとベクトルになります。

Gaussの定理

はじめに注意して欲しいのですが、これから扱う「Gaussの定理」と「Gaussの法則」は全く別のものです。「Gaussの定理」は数学の定理であり、「Gaussの法則」は電磁気学の法則の一つです。

さてそのGaussの定理ですが、次のような式をしています。

$$\int _S {\bf J}\cdot{\bf n}dS=\int_V \nabla \cdot {\bf J}dV$$

ここで\(V\)は任意の閉領域、\(S\)は閉領域の表面で、\(\bf n\)は表面\(S\)の微小な面積要素における外向きの単位法線ベクトルです。

また右辺の被積分関数\(\nabla \cdot {\bf J}\)のようにNabla演算子とベクトルによる内積のような演算を\(\mathrm{div}\,{\bf J}\)と書きます。この演算子\(\mathrm{div}\)は「発散(divergence)」を意味しています。

定理の意味

Gaussの定理は物理的にどのような意味を持っているのでしょうか。Gaussの定理の右辺は\({\bf J}\cdot {\bf n}\)という量を表面積\(S\)で足し合わせています。\({\bf J}\cdot {\bf n}\)はある微小な面積要素におけるベクトル\({\bf J}\)の外向き法線方向の大きさでした。これを足し合わせた量は、表面からベクトル\({\bf J}\)が外に向かって出ている量、ということになります。\({\bf J}\)を流れのベクトルと見ると、\(\int_S {\bf J}\cdot{\bf n}dS\)は表面\(S\)から湧き出す流れの量となるでしょう。

では右辺はどのような意味があるのでしょう。実は\(\mathrm{div}\,{\bf J}\)は\(\bf J\)のある点における「湧き出し・吸い込み」を表しています。なので、これを体積全体で積分すると、閉領域\(V\)から出てゆくベクトル\(\bf J\)の量となります。

つまり、右辺・左辺ともに領域から湧き出すベクトル\(\bf J\)の量を表しており、記述方法が体積積分と面積積分の2通りあるということです。

Stokesの定理

次にStokesの定理をみてみましょう。

$$\oint_C {\bf F}\cdot d{\bf r}=\int_S( \nabla \times {\bf F})\cdot {\bf n}dS $$

左辺の\(C\)は閉経路で、右辺の\(S\)は\(C\)を境界に持つような曲面のことです。\(C\)の向きは、進行方向向かって左側に\(S\)があるような向き(正の向き)にします。

f:id:Pharphys:20200515155520j:plain

定理の意味

Gaussの定理と同様に、Stokesの定理もある量を二つの方法で表現しています。その量とは何でしょうか。

左辺はベクトル\(\bf F\)を閉曲線\(C\)に沿って積分した量になります。ならば、右辺も同様の量を表しているはずです。

右辺を考える前に、\(\nabla \times {\bf F}\)という演算を考えてみましょう。これは\(\mathrm{rot}\,{\bf F}\)とも書き、ベクトル\({\bf F}\)の「回転(rotation)」を表しています。では、\(\mathrm{rot}\,{\bf J}\)を\(S\)で積分することを考えましょう。

面\(S\)を微小領域に分割し、そのそれぞれで\(\mathrm{rot}\)を考えます。

f:id:Pharphys:20200515162411j:plain

中心にある領域の\(\mathrm{rot}\)を見ると、隣り合う領域と打ち消しあって0になることがわかります。このようなことが領域内部で成り立つので、\(S\)全体で考えると、境界での\(\mathrm{rot}\)しか残らないことになります。境界での\(\mathrm{rot}\,{\bf F}\)を全て足すと左辺の積分に一致するでしょう。

Stokesの定理はベクトルの境界における積分を、境界に着目した方法と面に着目した方法の二つで表したものだということです。

まとめ

Gaussの定理

$$\int_S {\bf J}\cdot{\bf n}dS=\int_V \mathrm{div}\, {\bf J}dV$$

Stokesの定理

$$\oint_C {\bf F}\cdot d{\bf r} = \int_S \mathrm{rot}\, {\bf F}\cdot{\bf n}dS$$

(終)

光の波動性と粒子性の話

今回は「光の波動性と粒子性」についての話をします。1920年から1930年にかけて、光には波動性だけではなく粒子性も持っていることが実験・理論両面から確認されたのでした。参考記事はこちら。

fartherphysics.hatenablog.com

Planckの量子仮説の前からあった「Rayleigh-Jeansの法則」「Wienの法則」を俯瞰し、光の波動性と粒子性がどのような場合にどちらが顕著に現れるのかを確認します。

1. Rayleigh-Jeansの輻射法則〜波動的視点〜

Rayleigh-Jeansの輻射法則は、光が波(電磁波)であるという視点から構成されています。具体的には、輻射場の自由度が電磁波の自由度に相当するため、ベクトルポテンシャル\(\vec{A}\)を考えるところから始まります(別の記事で詳しく書きます)。

計算を進めていくと、エネルギー密度(単位体積毎)は$$\rho(\omega ,T)=\frac{k_BT\omega^2}{\pi^2c^3}$$となります。なお、\(k_B\)はBoltzmann定数、\(T\)は温度、\(\omega \)は光の角振動数、\(c\)は光速です。

Rayleigh-Jeansの輻射法則におけるエネルギー密度を\(\rho_{R.J.}\)と書いておきましょう。すると、振動数が\(\omega \sim \omega +d\omega \)の間にあるような光子の個数は$$dN_{R.J.}=\frac{\rho_{R.J.}(\omega,T)}{\hbar \omega}d\omega=\frac{k_BT\omega}{\pi^2c^3\hbar}\omega d\omega $$となります。分母が\(\hbar \omega\)なのは、角振動数\(\omega \)の光子のエネルギーが\(\hbar \omega\)だからです。

Rayleigh-Jeansの輻射法則は光を波として扱ったので、最後に「光子の個数」が出てきたことに違和感を覚える方もいるでしょう。ですがWienの輻射法則と比較するためなので、我慢してください。

 2. Planckの輻射法則とWienの輻射法則〜粒子的視点〜

ここからはPlanckの輻射法則を経由してWienの輻射法則を得たのち、Wienの輻射法則における光子の個数を求めます。

さてPlanckの輻射法則によれば、エネルギー密度は$$\rho_{Planck}(\omega,T)=\frac{\hbar \omega ^3}{\pi^3c^2}\frac{1}{\exp(\hbar \omega /k_B T)-1}$$と表されます。ここで\(\hbar \omega \gg k_BT\)という低温条件に対して成り立つのがWienの輻射法則で、$$\rho_{Wien}(\omega ,T)=\frac{\hbar \omega ^3}{\pi^2c^3}\exp(-\hbar \omega /k_BT)$$という表式になります。1と同様に振動数\(\omega \sim \omega +d\omega \)の範囲にある光子の個数を求めると$$dN_{Wien}=\frac{\rho_{Wien}(\omega,T)}{\hbar \omega}d\omega =\frac{\omega ^2}{\pi^2c^3}\exp(-\hbar \omega/k_BT)$$

となります。

3. Rayliegh-Jeans則とWien則の比較

では、すでに求めたRayliegh-Jeansの輻射法則とWienの輻射法則における振動数\(\omega \sim \omega +d\omega \)の光子数を比較してみましょう。

$$\frac{dN_{Wien}}{dN_{R.J.}}=\frac{\exp(-\hbar \omega /k_BT)\hbar \omega }{k_BT}$$

つまり温度が低いとRayliegh-Jeans則が、温度が高いとWien則が支配的になるということを意味しています。これをエネルギーと光の波動性・粒子性に置き換えると次のようになります。

  • 低エネルギーでは波動性が強くみられる
  • 高エネルギーでは粒子性が強くみられる

Rayliegh-Jeans則は不十分な理論ではありますが、このように光の粒子性・波動性のどちらが強く現れるかということを、エネルギーの視点から教えてくれます。

f:id:Pharphys:20200513223216p:plain

縦軸:\(\frac{dN_{Wien}}{dN_{R.J.}}\) 横軸:\(\hbar \omega /k_BT\)

(終)

古典力学の破綻と量子力学

量子力学は現代物理学の根幹となっている重要な分野です。ですが、量子力学が発展したのは1900年代以降。今回は量子力学は必要とされた理由、古典力学の破綻を見ていきます。

1. 電磁波の粒子性

古典力学において電磁波は波動として扱われてきました。1864年Maxwellによって見出され、1884年にO.Hevisideによって整理されたMaxwellの方程式でも、電磁波は波動方程式によって記述されています。しかし1900年代に入ると、電磁波が粒子的な性質を持つことが確認されるようになりました。

1.1 黒体輻射におけるPlanckの量子仮説

黒体とは周囲からやってくる電磁波をすべて吸収し、熱を外部に放出することのできる仮想的な物体のことを言います。電磁波=光を反射しないため黒く見えることから「黒体(Black Body)」と呼ばれています。黒体輻射は黒体から電磁波が放出される現象を言います。

この黒体輻射のスペクトルを論理的に説明しようとしたのがPlanckでした。それ以前にもRayleigh-Jeansの法則やWienの法則など輻射の理論は存在していましたが、実験データと合致しないという致命的な問題がありました。

Planckは、エネルギーは振動数に比例するエネルギー量$$E=h\nu$$の整数倍の値のみを取る、というプランクの量子仮説を導入し、黒体輻射のモデルを提唱しました(1900)。

ここで重要なのは、光のエネルギーが量子化されたことです。これは光が連続的なエネルギーを持つ電磁波とは真逆の性質を示していることを示唆していました。

1.2 光電効果によるEinsteinの光量子仮説

光電効果は金属板に光を照射すると電子が表面から放出される現象のことです。この現象は1888年にWilhelm Hallwachsによって発見され、様々な研究者によって盛んに研究されました。その結果、非常に興味深い性質として

  • 電子の放出は電磁波の振動数が一定の値より大きくないと起こらない。その値よりも小さい振動数の電磁波を長時間照射しても電子は放出されない。
  • 振動数の大きい電磁波を照射すると電子の運動量は大きくなるが、個数は変化しない。
  • 強い光を当てると多くの電子が放出されるが、運動エネルギーは変化しない。

という結果が得られました。

当時スイスのベルンで特許庁の職員をしていたEintsteinは、光電効果とPlanckの量子仮説を結び付けて説明するために、「光は粒子として存在している」という光量子仮説を提唱しました(1905)。

1.3 Compton散乱

Compton散乱とは、電子に光(特にX線)を照射すると電子と光が散乱する現象で、1922年にComptonが発表したものです。このとき散乱光の波長が入射光の波長よりも長くなることが確認されていました。これをCompton効果といいます。Compton効果は古典力学では説明できないものでした。

しかしComptonは「光が運動量とエネルギーを持つ粒子として振る舞っている」としてCompton効果の理論を完成させます(1923)。ここで光の運動量に定量的な定義が与えられました。

$$|\vec{p}|=\frac{h\nu}{c}=\frac{h}{\lambda}$$

 

2 電子の波動性

古典力学では、物質(粒子)は質量を持った点(質点)として考えられてきました。Newton力学もこの前提のもと組み立てられ、様々な現象を説明してきました。しかしミクロスケールの現象を記述しようとすると、古典力学は様々な方面から矛盾に直面します。そして物質も波動として振舞うことが理論的に確かめられました。

2.1 de Broglie波

de Broglileは光の粒子性と波動性を結びつけるために考えられた電磁波の運動量の概念を一般の物質にも適用し、物質も波動の性質を持っていると主張しました(1924)。

具体的には、粒子の静止質量を\(m_0\)、速さを\(v\)、運動量の絶対値を\(|\vec{p}|=mv\)とすると 、de Broglie波長\(\lambda \)は$$\lambda =\frac{h}{p}=\frac{h}{mv}$$となります。

2.2 電子線の回折

回折とは、光などの波が伝播する媒質中に障害物が存在するとき、波がその背後に回り込む現象のことです。この現象は障害物の大きさと波の波長が同程度の時に顕著に見られる特徴があります。

光の回折は1600年代から確認されていた現象でした。しかし1924年にde Broglieが物質の波動性を提唱し、物質でも回折現象が起こるのではないかと実験が行われました。

1927年、C.DavissonとL.Garmerはニッケル金属の結晶に電子線を照射すると、de Broglieの理論から予想される波長において回折が起こることを確認しました。これによってde Broglieが主張した物質の波動性が実験によって裏付けられました。

2.3 原子の安定性

量子力学の発展以前から、原子は原子核とその周りを回る電子からなっていると考えられていました。しかしこの原子模型を古典力学的に解析すると、原子が非常に不安定になってしまうこともわかっていました。

水素原子を例に考えます。原子の中心に電荷\(e\)の陽子があり、その周りを電荷\(-e\)の電子が一つ円運動をしています。このときの電子のエネルギーは

$$E=\frac{1}{2m}p^2-\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\frac{e^2}{r^2}$$

となります。位置\(r\)と運動量\(p\)が独立であるとすると、エネルギーの安定な平衡点は\(r=0\)となってしまい、電子は原子核に向かって「落ちていく」ことになります。実際に計算すると、水素原子は\(10^{-11}s\)程度で潰れてしまいます。

つまり、古典的な解釈では水素原子の安定性を説明できないのです。

3 古典力学から量子力学

1900年の始めはこれまでの古典力学では解明できない現象を、光の粒子性や物質の波動性といった新たな枠組みで捉え記述することができるようになった時代でした。古典力学の破綻と現象のの洞察が、現代物理学の基礎となる量子力学を作る第一歩となったのです。(終)