Planckの輻射法則(Planckの導出)
1900年、ドイツの物理学者Max Planckは黒体から放出される光のエネルギー密度と振動数の関係を、光のエネルギーを量子化することによって論理的に説明しました。このPlanckの量子仮説は量子力学の第一歩と言っても過言ではありません。
今回はそのPlanckの輻射法則をPlanckによる方法で導出します。
Planckの輻射法則
Planckの輻射法則は、放射エネルギー密度\(\rho\)について
$$\rho(\omega,T)=\frac{\hbar \omega ^3}{\pi^2c^3}\frac{1}{\exp(\hbar \omega /k_BT)-1}$$
という式で表されます。文献によっては、\(\hbar \to \frac{h}{2\pi}, \omega \to 2\pi \nu\)の表記で書いてあるかもしれません。
1 輻射の自由度
Plankによる導出は、光を波動として捉えるところから出発しています。
まず始めに輻射の自由度を考えます。輻射は電磁波なので、考えるべきは電磁波の自由度、さらに言えばVector Potential\(\bf A\)の自由度になります。
ここで\({\bf A}({\bf r},t)=A({\bf r})\exp(i\omega t)\)とすると 、□\({\bf A}=0\)から
$$\left(\Delta +\frac{\omega^2}{c^2}\right){\bf A}({\bf r})=\left(\Delta +k^2\right){\bf A}({\bf r})=0$$
となります。なお□はダランベール演算子で、□\({\bf A}=0\)はMaxwellの方程式をVector Potentialで表記した時の
$$□{\bf A}=\mu_0 {\bf i}$$
において\({\bf i}={\bf 0}\)としたものです。
さて、ここでVector Potentialがクーロンゲージを満たすとしましょう。この時、
$$\mathrm{div}{\bf A}=0 \Leftrightarrow {\bf A\cdot k}=0$$
となります。成分を顕にして書くと、
$$A_xk_x+A_yk_y+A_zk_z =0$$
です。また、波数\({\bf k}\)の大きさについては
$$|{\bf k}|^2=k_x^2+k_y^2+k_z^2\equiv k^2 =\frac{\omega ^2}{c^2}$$
となるので、天下り的ではありますが
$$k_x=\frac{n_x\pi}{a}\,,k_y=\frac{n_y\pi}{a}\,,k_z=\frac{n_z\pi}{a}\, n_x,n_y,n_z=1,2,3,...$$
とかけます。\(a\)は考えている空間の代表的なスケールであり、この式は空間の並進対称性によるものです。
この時、\((dn_z\,,dn_y\,,dn_z)\)の範囲に含まれるVector Potential\({\bf A}\)の自由度\(dN^\prime\)は\((n_z\,,n_y\,,n_z)\)空間の体積と同一視でき、 \(n_x,n_y,n_z\)は第一象限にあるので
$$dN^\prime=\frac{\pi}{2}n^2dn\, (n^2=n_x^2+n_y^2+n_z^2)$$
これは角振動数が\(\omega \sim \omega +d\omega\)にあるようなVector Potential の自由度なので\(dN^\prime (\omega)\)と書くと
$$dN^\prime (\omega)=\frac{1}{2}\pi n^2dn=\frac{\pi}{2}\left(\frac{a}{\pi}\right)^3k^2dk=\frac{V}{2\pi^2c^3}\omega ^2d\omega$$
一つの電磁波のモードには2つの編曲自由度があることを考えると
$$\frac{dN}{d\omega}=\frac{V}{\pi^2c^3}\omega^2$$
となります。
1.2 Rayleigh-Jeansの輻射法則
次に、実際にエネルギー密度と角振動数の関係を求めてゆきます。
まず温度\(T\)、体積\(V\)の空洞を用意し、その中での輻射を考えます。なお、輻射は一様で等方的かつ偏極なしと仮定しましょう。
輻射のエネルギー密度\(\rho(\omega ,T)\)は空洞全体との関係を考えると
$$\frac{E}{V}=\int_V \rho(\omega ,T)d\omega$$
となります。また、輻射のエネルギー=電磁場のエネルギーとしましょう。
さて、振動数は電磁場の固有振動数になります。これは考えている空間が有限の体積を持った空洞であるからです。
ここで次の2つの量を定義します。
\(\frac{dN}{d\omega}(\omega)d\omega\):角振動数が幅\(d\omega\)に含まれるモードの数
\(\bar{\varepsilon}(\omega,T)\):角振動数\(\omega\)のモードの温度\(T\)でのエネルギー
この時、角振動数が幅\(d\omega\)にあるようなエネルギーは
$$V\rho(\omega,T)d\omega = \frac{dN}{d\omega}(\omega)\bar{\varepsilon}(\omega,T)d\omega$$
$$\therefore \rho(\omega ,T)=\frac{1}{V}\frac{dN(\omega)}{d\omega}\bar{\varepsilon}(\omega,T)$$
となります。また、\(\frac{dN}{d\omega}=\frac{V}{\pi^2c^3}\omega^2\)から
$$\rho(\omega,T)=\frac{1}{\pi^2c^3}\omega^2\bar{\varepsilon}(\omega,T)$$
ここで光の偏光自由度が2で、エネルギー等分配則から\(\bar{\varepsilon}=k_BT\)となることを用いるとRayleigh-Jeansの輻射法則
$$\rho(\omega,T)=\frac{k_BT}{\pi^2c^3}\omega^2$$
導かれます。
エネルギーの量子化
導出したRayleigh-Jeansの輻射法則ですが、実際の観測結果と比べると\(\omega\)が大きい領域ではずれが生じてしまうことがわかっていました。
これを解決するために、Planckはエネルギーを量子化しました:
$$\varepsilon_n =n\cdot \hbar \omega $$
これを用いると平均のエネルギー\(\bar{\varepsilon}\)はBoltzmann分布により
$$\bar{\varepsilon}=\frac{\sum{}_n\varepsilon_n\exp(-\varepsilon/k_BT)}{\sum{}_n\exp(-\varepsilon_n/k_BT)}=\frac{\hbar \omega}{\exp(\hbar \omega/k_BT)-1}$$
となります。これを前述の\(\rho\)の式に代入すると
$$\rho(\omega,T)=\frac{\hbar \omega ^3}{\pi^2c^3}\frac{1}{\exp(\hbar \omega /k_BT)-1}$$
というPlanckの輻射法則が得られます。
Planckはこの導出を行う際に導入した「光エネルギーの量子化」はあくまで仮定として扱っており、具体的な物理的意味を見出すことはできませんでした。しかしその後Einsteinによって全く別の方向からPlanckの輻射法則が成り立つことが示され、光が粒子性を持つことが認められるようになります。(終)